「わたしの福沢一郎・再発見」  #005《鳥の母子像》1957年 富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館蔵

《鳥の母子像》

1957年 油彩・カンヴァス 116.5×91.0cm
富岡市立美術博物館・福沢一郎記念美術館

五十嵐 純
アーツ前橋 学芸員

 2017年夏、現在私の勤めている美術館、アーツ前橋で多様な鑑賞のあり方をテーマとした展覧会「コレクション+ アートの秘密 私と出会う5つのアプローチ」を開催しました。この展覧会では、一人の作家の個人史とつなげて作品を鑑賞する「作家」の章で福沢先生を取り上げ、戦前から70年頃までの作品を1点ずつ計8点紹介させてもらいました。多くの方が、同じ画家が描いた作品なのか?と驚いたことと思います。
 このウェブサイトの特設ページ「福沢一郎のことば・再発見」にもあるように、「おれはシュルレアリストなんかじゃねえよ」という先生の言葉は、ひとつの表現に縛られる事なく変化を続けた作品群を見ることで、自ずとその意味が理解できます。日本を代表するシュルレアリストとしての評価はさることながら、私にとっての福沢先生の一番の魅力は、その後の自由な表現方法の変化にあります。8点の作品を時代ごとに紹介させてもらった中で、最も印象に残っているのは《鳥の母子像》です。戦中戦後の激動の時代を経て、中南米へ旅に出た後の作品ですが、大胆な画面分割と原色を用いた色彩は、それまでの彩度を抑え、白みがかったグラデーションの幅で具象的に世界を捉えた作品とは真逆と言っていいほどの変化が見てとれます。表現に対する貪欲さと同時に、世界中を旅し、多様である世界をそのまま受け入れる懐の深さがあったのではないかと推測しています。ぜひ、一枚のお気に入りの作品から、その前後をたどり、福沢一郎先生の画業を見る事をお勧めします。
 最後に、先生と呼ばせていただいているのは、私自身、多摩美術大学の油画専攻を卒業し、幸いにもその際「福沢一郎賞」をいただきました。大学院に進学せず、就職をした訳でもなかった私は、卒業後すぐに海外にでかけ、恒例となっている記念館訪問をできなかったことに、後ろめたさを感じておりましたが、いま思えば「行って来い」と背中を押してもらえたのではないかと思っています。福沢先生の作品を見るたびに、「世界を見ろ、変化を恐れるな」とメッセージをもらえているような気がしています。



五十嵐純(いがらし・じゅん)アーツ前橋学芸員。1984年生まれ。2009年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業、福沢一郎賞受賞。2015年より現職。主な担当展覧会に、「Art Meets 04 田幡浩一/三宅砂織」、「フードスケープ 私たちは食べものでできている」、「ここに棲む 地域社会へのまなざし」など。


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